身長も伸びました 委員長もちゃんとこなしました それでもあなたには程遠くて 永久不滅な我らが体育委員長 井桁柄の制服を着ていた頃の最大の憧れであった若草色の制服に袖を通して、早一年。 六年生としてそれなりの仕事もこなし、そこそこに技量をついたはずだ。 卒業式を明日に控え、縁側に腰掛け思いを馳せる。 思い出を漁れば、あの暴君が大半を占めることにほんの少しいらっとした。 「金吾!」 ぼーっとしているときに突然名前を呼ばれ、ぐりんと顔を向けた先に。 「な、七松先輩。」 「はっはー!成長したな金吾。」 検討外れの場所を見なくなったな・と近くの草むらからひょこっと出てきた先輩は五年前とさほ ど変化はなく。 「これでも卒業試験受かりましたからね」 「そうか!金吾、就職は?」 「いえ、それはまだ…」 その発言に先輩は明らかに嬉しそうに顔を輝かせ詰め寄ってきた。 なんだ、結構俺はそこでも悩んでるんだぞ。 別に就職できないわけではないけれども、剣の道に進むか、忍の道に進むかを悩んでるんだ。 それなのになんだこのいけいけどんどんは(相変わらず気持ちのいい笑顔しやがって。) 「私のところに来い金吾!」 俺の心の中での悪態など露知らず、変わらないあの笑顔で俺の両手を握る。 「は、はあ。それは就職を世話してくださるということですか?」 「ああ!私のところに永久就職だ!」 豪快に笑う先輩を前にして俺は必死に頭を回し。 「遠慮させていただきます」 「な、なぜだ金吾…!」 泣きそうな顔すらするこの人が愛しいのは確かで。 憧れだと思っていた感情もいつのまにやら恋い焦がれるものへと変わり、深く悩むこともあった。 それなのに永久不滅な我らが体育委員長は、いとも簡単に言ってのけた。 俺の今までの悩んでいた時間を返せと思うばかりに、少し腹がたったのと、悔しかったのとで、拒否を口にした。 「わ、私は金吾が卒業するとき迎えに来ようって、五年間ずっと待ってたんだぞ…!!」 だったら五年前に約束の一つでも残していけってんだよ、このいけどん。 就職だって(忍の道にいけば、どこかで七松先輩と再会できるかな・とか。いやでも再会したらしたで敵同士でした・なんて厭だな、とか)、 思春期特有の欲望の対象だって(学園一の美人だっていうくの一に告白された時だって一ミリも嬉しくなかった・なんて絶対にこの人に教えてやらない。)、 いつだって悩みの種はあなただったんだ。 でも嬉しいことに変わりはなくて。 もう少し意地悪するくらい許されるかな。 なにせ、五年ぶりの再会だもの。 「俺は、七松先輩の嫁なんて嫌ですよ。」 「じゃ、じゃあ私が嫁でいい!」 本当に愛しい。 嬉しい。 涙を今にも流しそうな顔で必死に詰め寄ってくるこの五つも上の可愛らしい人に想われているなんて俺は幸せものかも知れない。 いや、きっと世界一の幸せものだ。 「小平太先輩。卒業式が終わる頃、また迎えに来て下さい」 「お、おう!ていうか、私の名前」 「俺も七松になるのに名字呼びではややこしいでしょう?」 先輩はなんとも形容しがたい顔をして、俺の頬にひとつ口付け(それはひどく不器用で飼い犬に頬を鼻でつつかれる感覚に似ていた)をして一時退却した。 遠くから聞こえてくる、いけいけどんどーんのテンションが聞いたことないくらい高いことに満足しながら俺は一つ伸びをして。 「嫁とか旦那じゃなくて、お母さんみたいになりそうだな、俺。」 自分の瞳が潤んでることに気付いたのは笑って目を細めた時だった。